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昔から防衛のあり方は技術革新によって大きく変容してきた。

今は、情報通信技術の力が、国防を大きく左右する時代となっている。半導体、人工知能、ビッグデータ、量子コンピューター、5G、インターネット標準を制した国が、米中の「新しい冷戦」をも制することになる。間違いなく、情報技術は産業経済だけでなく、軍事の領域でも、どちらが優位に立つかを決定するのである。

 

中国はこのことを10年以上も前から意識して、戦略的に取組んできたところである。このことが中国の「アジア覇権」を現実的なものにし、日本や米国などを脅かしつつあることが、ようやく先のトランプ政権下で明確に認識されるようになった。こうした経済産業を超えた国防の発想が、米国のHUAWEI(ファーウェイ)などに対する制裁措置の背景にある。

 

しかし、トランプ前大統領は「米国第一主義」の御旗のもとで、単独で中国の技術覇権を抑えようとしたところに問題があった。というのも、今の情報技術は、米国といえども単独でこれを産み出し、発展させ、支配することができない。例えば、米国規格の半導体チップが、台湾の工場で生産され、その機械装置はドイツ製のレンズを使っている日本製のものであったりするのだ。

 

こうしたことから、情報通信技術の戦略は、米国だけでなく、日本、欧州、インド、さらには、アップル、グーグル、マイクロソフトのような民間企業と緊密に連携する方が、賢明である。

 

しかし、残念ながら、今はこうした各国や各企業の間の連携はほとんどなされていない。むしろ、お互い疑心暗鬼になっている嫌いさえある。我が国の役割は、ただ漫然となりゆきを見守るのではなく、率先して米国などに働きかけ、情報通信の分野で各国や各企業と連携できる体制を構築することだと思う。

 

例えば、

1)中国からのサイバー攻撃や産業スパイに対抗するために、お互いに機密情報を交換すること。

2)中核的な技術について、各国が共同開発すること。

3)情報通信技術の供給網(サプライチェーン)は中国に集中せず、各国に分散すること。

4)プライバシーなど、新しい技術の健全な普及に必要な倫理基準を統一すること。

5)中国系の情報通信システムとは別個のものを構築すること。

 

もちろん、これは各国、各民間企業が、お互いに譲らなければならない利害対立があり、簡単にできることではない。しかし、このままの状態では、中国が各国・各企業の分裂のすき間を縫って、「デジタル覇権」への道をまっしぐらに突っ走っていくだろう。そして「デジタル覇権」は、そのまま「軍事覇権」につながることに強い危機感をもたなければならない。

中国包囲網は、外交軍事だけでなく、情報通信技術の領域でも形成すべきである。

 

ここ数年で新たに注目を浴びている安全保障の枠組みがある。

それはQUAD(Quadrilateral Strategic Dialogueの略称。以下、「クアッド」)というものだ。これは、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国による安全保障の枠組みの通称である。「日米豪印4カ国戦略対話」が正式な名称である。
もともと2007年に当時の安倍首相が提唱し、4か国の事務レベル協議が開催されたものの、多くの人は「いつまで続くのだろうか」と懐疑的だった。というのも、インドは非同盟の外交上の伝統を誇り、他国との連携にそもそも消極的であったし、オーストラリアは中国の怒りを買うことを恐れ、中国を敵視するような枠組みに参加することに消極的だったからだ。

 

しかし、2017年から「クアッド」は息を吹き返した。これは習近平さんのお陰である。

同主席のもと、中国は我が国に対しては尖閣諸島に攻勢をかけ、オーストラリアに対しては経済制裁を発動し、インドに対しては国境紛争を引き起こし、米国に対しては産業スパイ等を仕掛けてきた。そのお陰で、中国のアジア覇権への野望に対して「お互い協力しなければならない」との思いが参加国で共有されたのである。

 

最近の「クアッド」関連の動きとしては、

(1)2020年10月に、「日米豪印外相会合」が東京で開かれ、4カ国の外相が会談した。

(2)2020年11月には、インド・ベンガル湾における恒例の軍事演習「マラバール2020」に我が国の海上自衛隊をはじめ、インド海軍、米国海軍、オーストラリア海軍が一同に参加した。この軍事演習は、建前上「クアッド」と無関係となっているが、実際の中身は、近年インド洋に潜水艦を進出させている中国を念頭に置いて実施された。

(3)米国とインドの間で、①兵站(へいたん)※、②暗号化された情報交換、③海底地図などの機密情報に関する協力体制が構築された。

(4)日本、米国、オーストラリアはそれぞれF35ステレス戦闘機を使用することで、3ヶ国の共同作戦が取りやすくなった。

(5)2020年11月17日には、菅首相とオーストラリアのモリソン首相が防衛協定を結び、これにより両国の共同作戦が円滑に行えるようになった。

※兵站(へいたん)

軍事装備の調達,補給,整備,修理および人員・装備の輸送,展開,管理運用についての総合的な軍事業務。

 

たしかに、「クアッド」はNATOのような条約に基づいた公式の同盟組織ではない。参加国も4カ国と少ない。しかし、現段階では、参加国が少ない方が意思統一を素早くできる。また、今日は軍事だけでなく経済戦争の時代でもある。形式張っていない枠組みの方が、サイバー攻撃に対する防衛から戦略物資の確保等まで、幅広い課題に柔軟に対応することが可能である。

 

例えば、2020年11月に、中国はオーストラリア産ワインに暫定的な反ダンピング措置を発動すると発表し、制裁措置を課した。「中国と交流したいのであれば、言うことを聞きなさい。」という趣旨の発言とともに。オーストラリアにとっては、中国はワインの最大の購入国であり、これは大きな痛手に違いない。

 

我が国も、このことを傍観するのでなく、どうやってオーストラリアを側面支援するか等を「クアッド」の枠組みで検討すべきではないか。過去に、中国が日本に対してレアアースの禁輸措置を課したように、明日は我が身だ。

 

中国の王毅外相は、「クアッド」は“「波の花」のように消えていくだろう”と余裕綽々だ。しかし、外相の言葉とは逆に、「クアッド」は絶え間なく、波際を打ちつづける波濤のように盛り上がっていくだろう。また、そうしていかなければならない。我が国としては、率先してこれを発展させ、必要な時に積極的に動かすことが、自国の国土と国民を守ることにつながる。

 

 

日本にとって台湾は友好国であるとともに、戦略的に極めて大事な国である。万が一、台湾が中国によって陥落すれば、次は我が国が危うい。以下、中国の侵略に対して台湾がどこまで持ちこたえられるか、また、我が国としてはどうすれば良いか、について私の分析と提案である。

 

かつて中国は、経済と文化交流で台湾を統一できると踏んでいた。しかし、その見当に反して、現在、台湾人の3分の2は「自分を中国人だ」と意識してはいない。6割は中国に対して不信感さえも抱いている。実際、今年1月の台湾総統選では、蔡英文総統が親中派の候補に大差をつけ、史上最高800万票超の得票で圧勝した。つまり、台湾の有権者は、台湾統一を掲げる中国に対し、ノーを突きつけたと言える。

 

こうした情勢を踏まえ、中国・習近平国家主席は、より好戦的な対応を取り始めた。具体的には、

1)昨年、「新たな時代における中国の歴史的な復興には統一が必須条件」だ、と演説。

2)中国人民解放軍がここ数ヶ月、台湾に対する軍事的圧力を強化。

・戦闘機を台湾海峡の事実上の中間線を越えて飛ばしている。

・台湾周辺で大規模な軍事演習を実施している。

 

また、国防費を比較してみると、中国が継続的に増加させているのに対し、台湾は数十年、横ばい状態。こうした中で、今や台湾を中国から防衛することはかなり難しくなっている。

1)戦闘機の数で見ると、中国は10年前に台湾の4倍保有し、今は6倍の戦闘機を保有している。

2)中国の公表国防費は1990年代には台湾の2倍だったのが、2018年時点には台湾の約16倍になっている。(台湾中央銀行が発表した為替レートで米ドル換算して比較した場合)。中国は、1989年度から30年間で約48倍、2009年度から10年間で約2.5倍のスピードで増額を続けてきた。

 

図表I-2-2-16 台湾の防衛当局予算の推移

 

図表I-2-2-1 中国の公表国防予算の推移

 

図表I-2-2-17 中台の近代的戦闘機の推移

 

図表I-2-2-4 中国軍の配置と戦力(イメージ)

(出所)令和2年版 防衛白書より

 

もちろん、どんなに強大な軍事力を持ってしても、海から侵攻することは容易ではない。実際、米軍が朝鮮半島を攻略して以来、一国が海からそれなりに防衛された国を攻略した事例は世界にはない。中国も、第二次世界大戦で連合軍が実行した「ノルマンディ上陸作戦」のようなものを想定した軍事演習は一度も実施していないのだ。

 

現実的には、軍事ヘリや特殊部隊を駆使して攻めるほうが合理的である。しかし、これに対しても台湾の防衛の準備が十分整っていて、かつ、台湾人が戦う意志を持っていたら、十分に防衛できるだろう。

 

問題は、残念ながら、台湾の防衛準備が整っていないことだ。また、戦う意志も薄れてきているようだ。その証拠に、

1)米国のターナ・グリーアという軍事専門家は、9ヶ月間にわたって台湾の軍隊の視察をしてきたが、その結論として「台湾の軍隊は総じて訓練不足である」と総括している。

2)8月の台湾世論調査では、「中国と戦う意志がある」と答えた人は半分以下である。

 

したがって、今度は、米国が中台の紛争にどこまでかかわるか、ということが台湾防衛に極めて重要になる。

 

この点から言えば、「ランドシンクタンク」などが「机上作戦」を行った結果、米国はかなり不利な立場に置かれるということが判明している。具体的には、

1)アジアにおける米軍基地は、すべて中国のミサイルの射程範囲内にある。

2)米国本土から爆撃機を飛ばすことはできるが、これらに搭載すべきミサイルが不足。

3)米国の情報通信ネットワークを駆使した最新の軍事技術は、中国のサイバー攻撃能力に太刀打ちできるか不透明。

4)「米国第一主義」ということで内向きになった米国民が、どこまで中国との戦争を支持するか。

 

最も楽観的な想定で行われた「机上作戦」でも、米国は中国軍を押し返すことはできても、台湾は廃墟同然になるだろうと予測されている。

 

内向きになっている米国人について言えば、今や米国本土にある都市がすべて中国の核ミサイルの射程範囲に入っていることも影響している。「台北を守るかわりに、ロスアンゼルスを犠牲にする」鋼の意志が米国人にあるかどうか、判断を迫られるだろう。

 

まずは、何よりも台湾の軍事力強化と国民の意識改善が必要である。しかし、この点については、世論調査で「近い将来、中国と一線交えると思うか」という質問に対して、「ある」と答えた人は全体の5分の1に過ぎない。こうした台湾世論の中で、果たして防衛力を強化するための予算などをどこまで確保できるか、はなはだ心もとないことである。

 

こうした厳しい予想を踏まえ、我が国としてはやるべきことは、

1)台湾との軍事交流を強化。

2)台湾に軍事物資を支給する段取りを整える。

3)米国との共同戦略を早急に策定して、台湾防衛のための日米の役割をはっきりさせる。

ことなどが求められる。

 

再び警鐘を鳴らすが、台湾が陥落すれば、次は我が国だ。危機感をもって、以上の政策を早急に実行していく必要がある。