内面が弱いから、外に横暴に振る舞う。こういう人はよく見かけるが、国家も同じようなことがある。

 

今回は「中国の内政がどうなっているのか」、分析を試みたい。これは同時に、習近平体制になってから、日本だけでなく米国に対しても、近隣諸国に対しても、好戦的になってきた背景を明らかにすることでもある。

 

まず、中国共産党が独裁体制を強化していることは間違いない。かつて鄧小平の時代から中国は、40年間ぐらい「改革開放路線」を進めてきた。これは、外交防衛は基本的に穏やかに対処しつつ、国内の経済体制を改革する方針だった。「韜光養晦(とうこうようかい)」という鄧小平自身の言葉があるが、いわば「才能を隠して、内に力を蓄える」ことに専念してきたのである。

 

しかし習近平体制になってから、あたかも「文革時代」に逆戻りした感がある。「文革時代」には、当時の毛沢東が主導して、党や軍が党幹部や国民を弾圧したことで有名である。どうも習近平のもとで同じようなことが起きている。党の中でも、とりわけ国民の情報を把握し、情報を操作する「宣伝系統」と、「軍・警察系統」の締めつけが厳しくなってきているようだ。

 

また、「習近平思想」の礼賛、あるいは、習近平の個人崇拝を強制し、一般の教育現場だけでなく、同じ共産党の幹部に対してもこれらを強制する動きがみられる。

ただし、この習近平の「思想」というのは明確でない。彼がよく使う言葉は「マルクス主義」だ。しかし、「マルクス主義」といっても、国民の大半はあまり共感されていないのも事実である。

 

したがって、一方では「新しい価値を作れ」という動きもある。中国はかなり多様な社会であり、14億人の人口、様々な宗教や思想、考え方があるため、これらを束ねることは大変なことである。特に、後述するように、経済成長が鈍化している状況では、不満を持つ国民をまとめる共通の価値観が強く求められている。儒教のような伝統思想が見直されているのも、こうした動きの一環だろう。しかし、一度破棄したものは、そう簡単に復活することはできない。

 

次に、「なぜ、このように党の独裁を進めているのか」、その背景を探ってみる。

やはり、一番には経済成長が鈍化していることだ。

そもそも共産党支配の正当性は大きく2つある。ひとつは、中国にとっては屈辱の歴史でもある外国の植民地支配を追放して、自主独立の国を実現したこと。もうひとつは、経済発展を促進してきたことである。しかしながら、近年、中国の経済成長率は少しずつ落ちてきているため、正当性の一つが危うくなっているのだ。これを恐れて、人心を無理やりにでもまとめるため、習近平は独裁体制を強化しているのだろう。

 

今後、新型コロナウィルスの状況にもよるが、おそらく中国の国民所得は毎年平均5%前後で伸びていくだろう。日本の平均が1%前後であることを考えると、うらやましい限りであるが、中国は食べさせないといけない口が14億もある。一般的に、中国では毎年所得が4%伸びないと失業者が大量に発生する、といわれている。かつては平均10%伸びていたのが、現在は平均6~7%ぐらいに落ち込み、今後は5%ぐらいに鈍化していくのである。共産党指導部が戦々恐々とするのも無理はない。

 

たしかに、中国の人口のうち2億人は中産階級に属する。彼らは、海外旅行をはじめ裕福な生活を営んでいる。しかし、残り12億人は低所得者層と貧困層であり、不満がくすぶっている。先進国では、こうした格差を是正するために、所得を再分配する方策を採ってきたが、中国ではこうした議論はほとんどなされていない。

大雑把にいえば、所得再分配をすれば、国防を強化することができないのである。我が国が明治時代に直面した「富国」か「強兵」か、という選択を中国も迫られているのだ。これは習近平の最大の問題だが、ここまで米国などにケンカを売ってしまうと、「強兵」路線を進まざるを得ないだろう。

 

先ほど述べたように、中国共産党の正当性の一つは、米国であろうと外国に指図されない自主独立の国を実現したことだ。もう一つの正当性である経済の方は、無理に成長を促進することができないので、今後色あせて行く結末しかない。だからこそ、なおさら自主独立路線を突き進んでいくだろう。

 

これは我が国や世界にとっては甚だ迷惑な話であり、全面的に対抗せざるを得ない。こうした中で、中国を分析する際によく耳にする「中国は内部矛盾を抱えているから大したことない」と甘く見ることは禁物である。同時に、「中国は弱点一つもない大国である」という見方も同じように単純過ぎるので避けるべきだ。

 

中国を等身大に見ていくことが、我々には求められる。

2021年3月、米国のバイデン政権と中国の習近平指導部の外交トップによる初の会談が開催された。ここで明らかになったのは、1つはバイデン政権がトランプ前政権の強硬な対中政策を継続しているということ。2つは中国がこれに対して一歩も譲るつもりはないということ、である。

どんなに認めたくなくても、今や中国は、世界で唯一米国に対し「横綱相撲」をとれる超大国になっていると言える。

超大国というと、かつてはソ連がそうだったが、中国はこれをはるかに上まわる手強い相手になるだろう。

 

「新しい冷戦」という言葉がよく使われるが、これは誤解を招く恐れがあると思う。

 

なぜなら、ソ連に対する最初の「冷戦」で、米国がとった戦略は「封じ込め」である。これは、立案者の米国外交官ジョージ・ケナンの言葉を引用すれば、「長期において、忍耐強く、しかし断固と油断なく、ロシアの拡張的な傾向を封じ込める」というものだ。その目的は、「封じ込め」によって、ソ連が弱体化あるいは崩壊することにあった。ソ連の社会主義経済はどこかで行き詰まるという見通しがあったのである。

 

では、米国は、「新しい冷戦」の相手である中国を「封じ込め」ることができるのか。その答えは、無理だろうと言える。

なぜかというと、かつてのソ連と今の中国では、経済の規模だけでなく、その質が全然違うからである。封じ込めたところで、中国の経済が勝手に弱体化したり崩壊したりする見通しは、今のところ見当らない。

 

ソ連は超大国といっても、もっとも経済が拡張した1973年でも、米国経済の所詮36%のGDPしかなかった。他方、今の中国はあと8年程度で米国を抜いて世界一の経済規模を誇る勢いである。世界の国々で、中国を最大の貿易国としている国は64カ国もあるが、米国は38カ国しかない。中国は世界のものづくり製品の22%も生産をしているのである。

米国のハイテク製品、ドイツの車、フランスの高級ブランド商品、オーストラリアの鉱業も全てが中国市場に深く依存してしまっている。

こういったことからも分かるように、中国との経済関係を断つことは非現実的になってしまった。

 

過去を振り返ると、2001年に米国や日本をはじめ先進国は、中国のWTO(世界貿易機関)加盟を認め、暖かく迎えたのである。中国が豊かな国になれば、国際秩序を乱すような真似はしないと考えたのだ。しかしながら、予想以上に巨大になる中国に対して、トランプ前大統領は、どうも様子が違うということで、無理強いし、関税をかけ、経済制裁を試みた。

 

ところが、こうした手法は日本やドイツには通用したが、中国は微動だにしなかった。例えば、中国に支配された後の香港は、金融市場がむしろ繁栄している。また米国は3年もかけて、中国の通信機器の大手メーカーHuawei(ファーウェイ)を徹底的に標的にした。しかし、Huaweiの製品を使っている170カ国のうち、米国の言う通りに使用を禁止したのはわずか12カ国程度であった。この間、世界規模の中国のハイテク企業数は、7社から15社に増えている。

 

中国経済の図体が大きいだけではない。質を比較しても、ソ連経済の最大の強みはガスと石油という天然資源が豊富にあることであった。高度なものづくりの面では、話にならなかったのである。しかし、中国は、最新の消費者動向や新しい技術革新を発見する国として世界の企業から仰がれつつあり、世界の商品価格や資本価格が中国によって決定されるという現状だ。新しい技術がどんどん生まれることによって、インターネット上の標準や規制のあり方が誕生する国としても重視されつつある。

 

ということは、米国が音頭をとって「封じ込め」戦略をとったとしても、中国が孤立するのではなく、自由主義陣営が最先端の産業や技術から孤立しかねない。米国がいくら号令をかけても、ここまで最先端の巨大工場となった中国を無視して、米国にしたがう国はどのくらいあるだろうか。一方で、中国は米国のこうした仕打ちを先取りして、自給自足経済を目指している。昨年から、米ドルでなく、デジタル通貨で貿易の決済をできる仕組みを実験していて、半導体の分野でも自国内で完結できる体制を作りつつある。

 

したがって、漠然と米中が激しく対立するという意味では、「新しい冷戦」と言えるかもしれないが、「封じ込め」戦略は中国に通用しないのである。これは私の意見だけでなく、米国政府や専門家の間では常識となっている。

 

実際、今回の米中外交トップ会談でも、激しくやり合ってはいるが、ブリンケン国務長官は「北朝鮮、イラン、アフガニスタン、気候変動問題については、両国の利益は交わっている」と中国と連携する余地を残している。中国側といえば、もともと米国と共存しつつ、さらに国力を増強したいという戦略目標をもっているのだ。

 

ということで、中国を封じ込めるどころか、今後も中国と交流を続けていかざるを得ないのである。日本や米国が考えなければいけないのは、中国と交流をしつつ、その横暴な振る舞いを牽制することである。

これを実行するためには、

1)日本をはじめ台湾、欧米諸国やオーストラリア、インドなどの軍事力を強化する。

2)日米豪印のQUAD(クアッド)の連携を強化する。

3)各国の大学、クラウド、エネルギー供給網など、官民の機関や重要な供給網を、中国の国家的な攻撃から守るための対策をとる。

 

これらは「言うは易し」であり、実施するためには大変な労力がかかる。中国の実力を認め、脅威を感じてこそはじめて成し遂げられることだ。「中国なんか取るに足らない」とたかをくくるのは気持ちいいかもしれないが、「現実を直視しない者は破滅する」のだ。

 

中国共産党の政治上のイノベーションは、独裁制と技術を結合し、隠蔽と戦略的情報公開を使い分け、暴力と経済的安定を組み合わせることによって成り立っている。今後の少なくとも100年間は、こうした体制とより自由を重んじる体制との闘争となるだろう。

 

「中立は双方から信頼されない」

昔から、一国が自分の意思を相手国に押しつけるためには、軍事だけでなく経済制裁という手段がある。

従来は、輸出を止めたり、高率の関税を課したり、資産を凍結したりするなどの手段が代表的だった。最近では、中国がオーストラリア産ワインに200%の関税をかけた。これも1つの古典的な事例である。

 

これに対し、今後は、情報通信技術を用いる新しい方法が問題となってくるだろう。例えば、昨年話題になった中国のファーウェイが象徴的である。この会社が世界に安く提供している5Gシステムは、単に我々のスマホの検索速度を早めるだけではない。我が国の安全保障にも脅威となりうる代物である。

 

なぜなら、この時代ほとんどの組織や人、さらには多くの機械や商品までがインターネットでつながっている。民間の自動車やGPSといったものだけでなく、政府もインターネットによって機密情報をふくめた情報伝達・交換をしている。また、戦車、軍艦、戦闘機、宇宙レーダー衛星などもインターネットを活用している。

 

5Gシステムは、まさにこうしたインターネットのシステムをつなげる血管みたいなものである。人間の血管を血が流れるように、5Gの中を情報が流れていく。中国共産党と密接なつながりを持っている会社が、これを牛耳るということは、情報の血管を制することである。自由自在に情報が抜かれることもあろう。あるいは、中国共産党の差配により、完全に情報の流れを止められることさえ可能だ。

トランプ前政権が危機感を持ったのも頷けるわけである。

 

我が国政府も、ようやくこの新しい経済安全保障の問題を認識しつつある。内閣官房に国家安全保障局というものがあるが、ここに2020年4月に「経済班」というものができた。この部署でやっと、

(1)機微技術や輸出・投資の規制

(2)外国の技術者や留学生が入国する時の審査ならびに規制

(3)安全保障上重要な土地(例えば、自衛隊基地の周りの土地など)の規制

などのあり方について検討を開始している。

また「外為法」の改正も行われた。これにより、外国資本が安全保障上重要とみなされる日本企業の株を買うとき、あるいは議決権を取得するときには、政府に事前に届出をしなければならなくなった。

こうした動きは、遅ればせながらも歓迎したい。しかし、問題はやはり今後、中国に対しどういう姿勢で向き合っていくのかである。今のところ、政府は中国にはかなり配慮していると言わざるを得ない。これは恐らく我が国の産業経済界が中国に相当依存しているからであろう。

 

例えば、ファーウェイ問題についても、政府は米国の強い要請に応じて、政府内の5Gシステムを排除した。しかし、民間企業に対しては非常にゆるい対応しか取っていない。これはアメリカの対策と対照的である。

 

もっと重要なのは、中国は「デジタル覇権」を目論んでいて、情報通信、クラウド、海底ケーブルなどの分野で中国技術の圧倒的優位を確立しようとしている。現実にこれらの分野を中国が支配したあかつきには、先に記した通り、我が国の戦略的な情報はいつ何時でも勝手に抜かれることを覚悟しなければならない。

 

こうしたことに危機感を抱いたトランプ前政権から、2020年8月頃に、我が国に「中国のこうした動きは危険なので、中国以外の常識的な「法の支配」に則った国々で「クリーンシステム」を構築しようではないか。日本も参加して欲しい。」旨の打診があった。

 

これに対し、我が国は、中国に配慮して「特定の国を排除するような枠組みには参加しない」と断ったのである。これは戦後日本外交の王道に即した対応ではある。米国にも配慮し、中国にも配慮する。非常に微妙な均衡を取りながら、国益を追求するという考え方である。

 

しかし、今や尖閣諸島に対する非礼かつ脅威的な行動などをはじめ、日本を囲む海洋への中国の野望に対し、もっと深刻に考えるべきではないだろうか。中国の経済規模は10年以内に米国を超えるだろう。日中の国力の差がどんどん開く中、今後、中国が一変して善意な外交を展開するだろうか。

 

この期に及んでは、やはり旗幟鮮明(きしせんめい)にすべきだ。米国が提案したような、中国を排除するような枠組みの中にも参加をする。むしろ積極的に各国に呼びかけて、率先してこういった枠組みを作っていくべきである。そうしなければ、中国が我が国の国益を侵害することを止められない、と確信する。

 

結局のところ、両国に配慮することは、両国から信頼を失うということにもつながる。昔、マキャベリという政治思想家が「争いが起こった途端、旗幟鮮明にすべきだ。中立の立場をとった場合、勝者にとっての敵となるばかりでなく、敗者からも助けてくれなかった、という敵視を受けることとなる。」という言葉を残している。

 

もうとっくに争いは、始まっているのだ。

昔から防衛のあり方は技術革新によって大きく変容してきた。

今は、情報通信技術の力が、国防を大きく左右する時代となっている。半導体、人工知能、ビッグデータ、量子コンピューター、5G、インターネット標準を制した国が、米中の「新しい冷戦」をも制することになる。間違いなく、情報技術は産業経済だけでなく、軍事の領域でも、どちらが優位に立つかを決定するのである。

 

中国はこのことを10年以上も前から意識して、戦略的に取組んできたところである。このことが中国の「アジア覇権」を現実的なものにし、日本や米国などを脅かしつつあることが、ようやく先のトランプ政権下で明確に認識されるようになった。こうした経済産業を超えた国防の発想が、米国のHUAWEI(ファーウェイ)などに対する制裁措置の背景にある。

 

しかし、トランプ前大統領は「米国第一主義」の御旗のもとで、単独で中国の技術覇権を抑えようとしたところに問題があった。というのも、今の情報技術は、米国といえども単独でこれを産み出し、発展させ、支配することができない。例えば、米国規格の半導体チップが、台湾の工場で生産され、その機械装置はドイツ製のレンズを使っている日本製のものであったりするのだ。

 

こうしたことから、情報通信技術の戦略は、米国だけでなく、日本、欧州、インド、さらには、アップル、グーグル、マイクロソフトのような民間企業と緊密に連携する方が、賢明である。

 

しかし、残念ながら、今はこうした各国や各企業の間の連携はほとんどなされていない。むしろ、お互い疑心暗鬼になっている嫌いさえある。我が国の役割は、ただ漫然となりゆきを見守るのではなく、率先して米国などに働きかけ、情報通信の分野で各国や各企業と連携できる体制を構築することだと思う。

 

例えば、

1)中国からのサイバー攻撃や産業スパイに対抗するために、お互いに機密情報を交換すること。

2)中核的な技術について、各国が共同開発すること。

3)情報通信技術の供給網(サプライチェーン)は中国に集中せず、各国に分散すること。

4)プライバシーなど、新しい技術の健全な普及に必要な倫理基準を統一すること。

5)中国系の情報通信システムとは別個のものを構築すること。

 

もちろん、これは各国、各民間企業が、お互いに譲らなければならない利害対立があり、簡単にできることではない。しかし、このままの状態では、中国が各国・各企業の分裂のすき間を縫って、「デジタル覇権」への道をまっしぐらに突っ走っていくだろう。そして「デジタル覇権」は、そのまま「軍事覇権」につながることに強い危機感をもたなければならない。

中国包囲網は、外交軍事だけでなく、情報通信技術の領域でも形成すべきである。

 

ここ数年で新たに注目を浴びている安全保障の枠組みがある。

それはQUAD(Quadrilateral Strategic Dialogueの略称。以下、「クアッド」)というものだ。これは、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国による安全保障の枠組みの通称である。「日米豪印4カ国戦略対話」が正式な名称である。
もともと2007年に当時の安倍首相が提唱し、4か国の事務レベル協議が開催されたものの、多くの人は「いつまで続くのだろうか」と懐疑的だった。というのも、インドは非同盟の外交上の伝統を誇り、他国との連携にそもそも消極的であったし、オーストラリアは中国の怒りを買うことを恐れ、中国を敵視するような枠組みに参加することに消極的だったからだ。

 

しかし、2017年から「クアッド」は息を吹き返した。これは習近平さんのお陰である。

同主席のもと、中国は我が国に対しては尖閣諸島に攻勢をかけ、オーストラリアに対しては経済制裁を発動し、インドに対しては国境紛争を引き起こし、米国に対しては産業スパイ等を仕掛けてきた。そのお陰で、中国のアジア覇権への野望に対して「お互い協力しなければならない」との思いが参加国で共有されたのである。

 

最近の「クアッド」関連の動きとしては、

(1)2020年10月に、「日米豪印外相会合」が東京で開かれ、4カ国の外相が会談した。

(2)2020年11月には、インド・ベンガル湾における恒例の軍事演習「マラバール2020」に我が国の海上自衛隊をはじめ、インド海軍、米国海軍、オーストラリア海軍が一同に参加した。この軍事演習は、建前上「クアッド」と無関係となっているが、実際の中身は、近年インド洋に潜水艦を進出させている中国を念頭に置いて実施された。

(3)米国とインドの間で、①兵站(へいたん)※、②暗号化された情報交換、③海底地図などの機密情報に関する協力体制が構築された。

(4)日本、米国、オーストラリアはそれぞれF35ステレス戦闘機を使用することで、3ヶ国の共同作戦が取りやすくなった。

(5)2020年11月17日には、菅首相とオーストラリアのモリソン首相が防衛協定を結び、これにより両国の共同作戦が円滑に行えるようになった。

※兵站(へいたん)

軍事装備の調達,補給,整備,修理および人員・装備の輸送,展開,管理運用についての総合的な軍事業務。

 

たしかに、「クアッド」はNATOのような条約に基づいた公式の同盟組織ではない。参加国も4カ国と少ない。しかし、現段階では、参加国が少ない方が意思統一を素早くできる。また、今日は軍事だけでなく経済戦争の時代でもある。形式張っていない枠組みの方が、サイバー攻撃に対する防衛から戦略物資の確保等まで、幅広い課題に柔軟に対応することが可能である。

 

例えば、2020年11月に、中国はオーストラリア産ワインに暫定的な反ダンピング措置を発動すると発表し、制裁措置を課した。「中国と交流したいのであれば、言うことを聞きなさい。」という趣旨の発言とともに。オーストラリアにとっては、中国はワインの最大の購入国であり、これは大きな痛手に違いない。

 

我が国も、このことを傍観するのでなく、どうやってオーストラリアを側面支援するか等を「クアッド」の枠組みで検討すべきではないか。過去に、中国が日本に対してレアアースの禁輸措置を課したように、明日は我が身だ。

 

中国の王毅外相は、「クアッド」は“「波の花」のように消えていくだろう”と余裕綽々だ。しかし、外相の言葉とは逆に、「クアッド」は絶え間なく、波際を打ちつづける波濤のように盛り上がっていくだろう。また、そうしていかなければならない。我が国としては、率先してこれを発展させ、必要な時に積極的に動かすことが、自国の国土と国民を守ることにつながる。

 

 

日本にとって台湾は友好国であるとともに、戦略的に極めて大事な国である。万が一、台湾が中国によって陥落すれば、次は我が国が危うい。以下、中国の侵略に対して台湾がどこまで持ちこたえられるか、また、我が国としてはどうすれば良いか、について私の分析と提案である。

 

かつて中国は、経済と文化交流で台湾を統一できると踏んでいた。しかし、その見当に反して、現在、台湾人の3分の2は「自分を中国人だ」と意識してはいない。6割は中国に対して不信感さえも抱いている。実際、今年1月の台湾総統選では、蔡英文総統が親中派の候補に大差をつけ、史上最高800万票超の得票で圧勝した。つまり、台湾の有権者は、台湾統一を掲げる中国に対し、ノーを突きつけたと言える。

 

こうした情勢を踏まえ、中国・習近平国家主席は、より好戦的な対応を取り始めた。具体的には、

1)昨年、「新たな時代における中国の歴史的な復興には統一が必須条件」だ、と演説。

2)中国人民解放軍がここ数ヶ月、台湾に対する軍事的圧力を強化。

・戦闘機を台湾海峡の事実上の中間線を越えて飛ばしている。

・台湾周辺で大規模な軍事演習を実施している。

 

また、国防費を比較してみると、中国が継続的に増加させているのに対し、台湾は数十年、横ばい状態。こうした中で、今や台湾を中国から防衛することはかなり難しくなっている。

1)戦闘機の数で見ると、中国は10年前に台湾の4倍保有し、今は6倍の戦闘機を保有している。

2)中国の公表国防費は1990年代には台湾の2倍だったのが、2018年時点には台湾の約16倍になっている。(台湾中央銀行が発表した為替レートで米ドル換算して比較した場合)。中国は、1989年度から30年間で約48倍、2009年度から10年間で約2.5倍のスピードで増額を続けてきた。

 

図表I-2-2-16 台湾の防衛当局予算の推移

 

図表I-2-2-1 中国の公表国防予算の推移

 

図表I-2-2-17 中台の近代的戦闘機の推移

 

図表I-2-2-4 中国軍の配置と戦力(イメージ)

(出所)令和2年版 防衛白書より

 

もちろん、どんなに強大な軍事力を持ってしても、海から侵攻することは容易ではない。実際、米軍が朝鮮半島を攻略して以来、一国が海からそれなりに防衛された国を攻略した事例は世界にはない。中国も、第二次世界大戦で連合軍が実行した「ノルマンディ上陸作戦」のようなものを想定した軍事演習は一度も実施していないのだ。

 

現実的には、軍事ヘリや特殊部隊を駆使して攻めるほうが合理的である。しかし、これに対しても台湾の防衛の準備が十分整っていて、かつ、台湾人が戦う意志を持っていたら、十分に防衛できるだろう。

 

問題は、残念ながら、台湾の防衛準備が整っていないことだ。また、戦う意志も薄れてきているようだ。その証拠に、

1)米国のターナ・グリーアという軍事専門家は、9ヶ月間にわたって台湾の軍隊の視察をしてきたが、その結論として「台湾の軍隊は総じて訓練不足である」と総括している。

2)8月の台湾世論調査では、「中国と戦う意志がある」と答えた人は半分以下である。

 

したがって、今度は、米国が中台の紛争にどこまでかかわるか、ということが台湾防衛に極めて重要になる。

 

この点から言えば、「ランドシンクタンク」などが「机上作戦」を行った結果、米国はかなり不利な立場に置かれるということが判明している。具体的には、

1)アジアにおける米軍基地は、すべて中国のミサイルの射程範囲内にある。

2)米国本土から爆撃機を飛ばすことはできるが、これらに搭載すべきミサイルが不足。

3)米国の情報通信ネットワークを駆使した最新の軍事技術は、中国のサイバー攻撃能力に太刀打ちできるか不透明。

4)「米国第一主義」ということで内向きになった米国民が、どこまで中国との戦争を支持するか。

 

最も楽観的な想定で行われた「机上作戦」でも、米国は中国軍を押し返すことはできても、台湾は廃墟同然になるだろうと予測されている。

 

内向きになっている米国人について言えば、今や米国本土にある都市がすべて中国の核ミサイルの射程範囲に入っていることも影響している。「台北を守るかわりに、ロスアンゼルスを犠牲にする」鋼の意志が米国人にあるかどうか、判断を迫られるだろう。

 

まずは、何よりも台湾の軍事力強化と国民の意識改善が必要である。しかし、この点については、世論調査で「近い将来、中国と一線交えると思うか」という質問に対して、「ある」と答えた人は全体の5分の1に過ぎない。こうした台湾世論の中で、果たして防衛力を強化するための予算などをどこまで確保できるか、はなはだ心もとないことである。

 

こうした厳しい予想を踏まえ、我が国としてはやるべきことは、

1)台湾との軍事交流を強化。

2)台湾に軍事物資を支給する段取りを整える。

3)米国との共同戦略を早急に策定して、台湾防衛のための日米の役割をはっきりさせる。

ことなどが求められる。

 

再び警鐘を鳴らすが、台湾が陥落すれば、次は我が国だ。危機感をもって、以上の政策を早急に実行していく必要がある。

新しい総理・内閣が誕生し、今ここでふり返って、安倍政権誕生の2012年末からの景気拡大期の分析をするのも決して無意味ではないだろう。新型コロナ不況以前から、我が国の産業経済が、一般に思われているより厳しい状況にあることが分かるからである。

 

一言でいえば、日本経済は低賃金スパイラルに陥っている。

 

【低賃金スパイラルの実態】

具体的には、①消費が伸びない→②中小零細企業とりわけ小売業が人員削減、場合によっては倒産→③あぶれた労働者は大企業に再就職するが、大半とまでは言わなくても、多くは非正規雇用で採用→④平均賃金が伸びない→振り出しに戻って、①消費が伸びない。。。

 

この悪循環を断たないと賃金は上がらない。そして消費は増えない。

 

よく言われるように、たしかに大企業は2012年末から「営業利益」が7割以上伸びている。前代未聞の利益だ。さぞかし給料も増えていると思いきや、大企業の一人当たりの平均賃金は1.2%減少しているのである。要は、増えた利益は株主配当や税金支払いに回されているものの、賃金は引上げられず、内部留保におさまっているということである。

 

もっと詳細にみれば、大企業の利益の増え方もいびつだ。「売上」は実はそれほど増えてはいない。どのように利益を増やしたかというと、一つは人件費の削減である。もうひとつは、たまたまこの時期、原油価格が安くなっていたので、原材料の経費が大幅に減ったのである。

 

ここで私たちの課題は、「この悪循環を断ち切って、どうやって賃金を上げるのか」だ。これには様々なやり方がある。①最低賃金の引上げ。②「同一労働同一賃金」の定着。③経済成長を伸ばす。④生産性の高い産業を発展させること、が挙げられる。

 

【最低賃金の引上げ】

まず、最低賃金については、政府はこれを引き上げようとしている。菅総理の強い意向だそうだ。しかし、新型コロナの影響で企業が疲弊している中、それらの個々の体力に応じて最低賃金を引き上げていかなければ、不当に中小企業を追い込むことになる。いや、むしろ、菅総理の参謀であるデービッド・アトキンソン氏は、中小企業を淘汰することで経済全体の生産性を向上させることできるという考え方である。

 

私自身、必ずしも最低賃金の引き上げに反対していないが、個々の企業には個々の事情がある。とりわけ中小企業は大企業と全く事情が異なる。政府によって無理矢理に大手も中小も一律最低賃金を引き上げることには反対だ。

 

【同一労働同一賃金】

次に、「働き方改革」の一つの目玉「同一労働同一賃金」について触れる。これは文字通り、正規であろうと非正規であろうと、同じ仕事をしているのであれば同じ賃金を支払うことを意味する。

 

うまくいけば、大企業の非正規雇用として採用されたとしても、それなりに正規雇用と同じような賃金を得ることができ、結果として消費が増えることにつながり、良い循環に転換する可能性がある。

 

しかし実際には、大企業では、逆に非正規雇用の賃金水準まで正規雇用の賃金水準を下げようとしている。例えば、正社員の家族手当や住宅手当を廃止する企業が少しずつ増えている。これでは平均賃金の上昇にはつながらない。むしろ逆方向になる。やはり、非正規雇用の賃金が上がるような政策を考えていかなければならない。

 

そういう意味では、非正規雇用の正規雇用化をもっと進めなければいけない。もちろん、多様な働き方があり、非正規雇用の方が自分の生活様式に合うという方もいる。また今の日本の雇用制度の中で、非正規雇用を積極的に活用しないとなかなか経営が厳しいということも理解できる。

私は、大企業については、非正規雇用をすべて規制するのではなく、「一定の契約期間、働いた者は正社員にしなければいけない」という義務規定を罰則付きで強化することを提案する。現在、非正規雇用が労働者全体の4割程度も占める。この割合を減らしていかないと平均賃金は上がらないのである。

 

【経済成長の増強】

三つ目に、やはり経済の成長率そのものを引き上げること、これが経済政策の王道である。これにより全体の消費や賃金の水準を引き上げることにつながる。これは先のブログでも取り上げたとおりであるが、1)労働力人口、2)設備投資、3)生産性の3つの要素でしか、成長率を伸ばすことができない。

 

このうち、人口政策としての家族政策を強力に実行すべきである。また、生産性を上げるためには、研究開発に国の予算を集中投入するのと同時に、教育水準を上げるための政策なども推し進めるべきだ。

 

【産業政策】

最後に、産業政策についてはどうか。これまでの日本経済の強みは「ものづくり」だった。しかし、2012年末からの景気拡大期においてでさえ、日本のものづくり産業の売上はあまり上がっていない。国内景気も良く、輸出も好調である中にあっても、なかなか売上が上がらず、結果として人件費削減という「乾いた雑巾」を絞らざるを得なかったのである。また、たまたま原油安という追い風にも恵まれ、利益を増やしてきたのである。これが今の日本の産業の厳しい現状である。

 

ところが、賃金が高く、売上げも伸ばしてきた産業がある。これが「高度サービス産業」だ。情報通信関連企業、学術関係、技術や知識を提供するサービスのように、知的な資産を提供する産業である。現実、今後については、こうした産業が若者の雇用と将来の経済を背負っていくだろう。だからこそ、政府はこうした産業に力を注ぎ込むべきである。規制緩和などの方法もあるが、やはり高度サービス産業で活躍できる人を育てる教育が必要である。大学院の教育、とくに金融や、コンピューターサイエンス、データサイエンスといった分野に相当力を入れなければ、日本は遅れを取り戻すことはできない。

米国においては、ものづくり産業の雇用よりも、「高度サービス産業」の雇用の方が圧倒的に多くなっている。この20~30年で、アップル、グーグル、アマゾンといった企業が発展して、多くの米国人の雇用を増やしている。だからこそ米国の平均賃金が上がってきたのである。

 

【真の「デフレ脱却」とは】

賃金が上がることが、本当の意味での「デフレ脱却」である。金融緩和や円安政策により無理に物価を上昇させるのではなく、売上が伸び、賃金が上がり、その結果として物価が上がる。今やらなければいけない経済政策は、こうした好循環をつくりだすことに焦点を絞るべきではないか。

 

いずれにしても、魔法の杖はない。魔法の杖はないが、地道な政策を推し進めることが、日本経済の底上げにつながり、生活の豊かさを確保できるのだと確信している。「急がば回れ」である。

我が国が、これまで築いてきた富と自由と独立を守りたいのであれば、少子化とこれに伴う人口減少に歯止めをかける必要がある。

国家予算で、社会保障全体のうち少子化対策の占める割合は7.2%である一方、医療年金介護の占める割合は66.3%。このような大きな開きが見られる。

ここで、諸外国の少子化対策を参考にしてみる。

その前に、そもそも他の国では「少子化対策」という言葉は使わない。「家族政策」が通常の表現である。

我が国では、戦前の家父長制度を彷彿させるためか、政府は「家族」という言葉を避けている。しかし、様々な家族形態はあってもいいものの、地域や社会の基本単位である「家族」が重要であるのは間違いない。この基本共同体を応援するのが「家族政策」であり、これを推し進めることによって、子どもを増やすことを先進国の一部はかなり力を入れているのだ。

各国比較する上で、国によって経済規模が違うので、分母にGDPの数字、分子に家族政策の予算額をおいて計算すると以下の通りになる。

家族政策予算額/GDPの比率

GDP比

出生率

日 本

1.29

1.43

米 国

0.65

1.77

ドイツ

2.28

1.57

フランス

2.96

1.92

スウェーデン

3.54

1.85

イギリス

3.57

1.79

米国はご案内のとおり、自己責任の強いお国柄なので、日本よりも予算額が少ない。しかし、他の国は我が国を大きく上回っていることがわかる。

こうした中で、日本政府はあと5年ほどで出生率を1.8%まで引上げると言っているが、これは不可能と言わざるを得ない。

もちろん、上記の表から分かるように、必ずしも家族政策に予算をたくさん使ったからと言って、出生率が上がるとは言えないが、だいたいの傾向は見えてくる。

外国人労働者などに現実的な問題があるため、私はかねてから1.29%という日本の家族政策関連の予算を増やしていくしかないと訴えてきた。

フランスやスウェーデンでも、一時期出生率が1.5~1.6までかなり落ち込んだが、家族政策の予算を増額し、各種支援策を打つことによって回復させたこともあるので、日本もこういう決断をすべきではないだろうか。

そもそも日本は、既婚女性の出生率は他の先進国に比べてもそんなに低いわけではないが、ライフスタイルの変化や結婚形式や価値観の多様化に伴い、諸外国と比較して晩婚化が顕著であり、また未婚女性も増えていることが出生率の低下に直結している。

先のブログで紹介した通り、内閣府のアンケートによると結婚していない・しないのは「経済的な理由」が挙げられている。

これは避けて通れない大きな課題である。

このまま何もしなければ、現役世代の人口が急激に、そして大きく減る。いや、もうすでにこうした流れの真っ只中にあると言える。これは経済成長にも悪影響を及ぼし、防衛力や国力そのものにも影響する。

徹底的な家族政策を実行すべきではないだろうか。

徹底的な家族政策こそ、必ずや日本経済と国力の底上げにつながると確信している。

各種選挙や、ユーチューブの準備・撮影などに忙殺され、久しぶりにブログを書く。10月1日に消費税が10%に引上げられたので、自然と増税の話になってしまう。

皆様もご存知のとおり、消費税10%への引き上げは過去2回、いずれも経済的な理由で延期された。しかし、その理屈でいえば、昨年のブログにも書いたように、今は過去2回延期したときよりも経済的に不透明感が漂っていて、本当は今回こそ延期をすべきだった。

最初に安倍総理が増税を延期したのは、今から5年前の2014年11月だった。確かにこの時は、消費税率が同年4月に8%に引上げられたので、当然、経済統計の数字も悪かったのは事実。しかし、実際に10%への増税が予定されていたのは、延期を発表した1年後の2015年10月のこと。いくらなんでも増税直後の数字が悪いからといって増税予定の1年前に増税延期を決定するのは、判断が早すぎるといわざるを得ない。現実に、その後の経済はそれなりに順調に推移していったのだ(2016年実質GDPはプラス1.0%)。

次に延期したのは、今から3年前の2016年6月。この時の直近の統計は、実質GDPが1.7%も伸びていた。それでも総理は「原油価格・商品市況が暴落している状況がリーマンショックに似ている」という理由で延期に踏み切った。しかし、この「原油価格・商品市況が暴落している」のは、当時、米国でシェールガスが発掘されたことや、ドル高騰によることが大きく、景気そのものには直接関係なかったのである。

では、今回の経済状況はどうか。

昨年末から警鐘を鳴らしているとおり、昨年から欧州、中国の経済が減速している。頼みの綱の米国も、今や利下げにより景気の延命措置に汲々としているのである。私が勝手に言っているのでなく、世界の専門家からも金融恐慌の可能性すら云々されている。

何よりも心配なのは、消費増税で一番打撃を受ける中小企業や個人事業者だ。これらの大半は「働き方改革」によってこれから想像以上に厳しい局面を迎える。長時間労働の抑制、「同一労働同一賃金」などは労働者にとっては当然の措置である。しかし、政策の良し悪しとは別に、中小企業の大半にとって相当な負担になることに間違いない。労働条件が改善しても、職場が倒産で消えたら元も子もない。

こうしたことから、世界経済が悪化する中で、中小企業は不景気・働き方改革・増税の「三重苦」を背負っていくことになるだろう。

つまり、現在の景気状況は、過去の増税延期判断の時に比べて、少なくとも同じくらい不透明であり、これまでと同じ理屈でいけば今回の増税は延期すべきだった。

ただ私自身は、2回目の増税延期の時点で、おそらく総理はもう延期しないだろうと踏んでいて、そのように選挙でも訴えた。というのも、延期時に安倍内閣は消費税増税法を改正して、なんと「景気条項」をまるまる削除したからである。「景気条項」というのは、「景気が悪ければ増税はしなくてもいい」という至極当然の法律規定だ。逆に、この規定を削除することは、もはや「景気に配慮せず増税をしても良い」と解釈するのが普通だからだ。

なぜこのような不思議な改正をしたのか。

おそらくは、財務省や与党内の一部の議員の増税派を説得するためだろう。増税派は、安倍総理が2回も増税延期したので「2度あることは3度ある」と疑心暗鬼になり、総理がそれらを払拭し説得するためには、「景気がどうあれ、次回は必ず増税するので安心しろ。その証拠に消費税増税法から“景気条項”を削る」と手形を切らざるを得なかったのではないか。

いずれにせよ、消費税増税法から「景気条項」が消した時点で、安倍総理は自ら退路を断ち、今回の誠にタイミングの悪い増税がほぼ確定したのである。

我が国経済の将来展望に暗雲がかかっている。

数回にかけて、自分なりの処方箋のあらましを書き記す。

大雑把には、前回のブログでも訴えた通り、「国民が将来の成長に希望をもてるように、労働力人口を増やし、技術革新を活性化する具体策を実行すること」が重要だ。

今回は、日本の成長率のもっとも重たい足かせとなっている労働力人口(15歳から64歳の人口)の減少をどう最小限にとどめるか、ということに焦点をしぼりたい。

そもそも労働力人口を増やす政策には、次のような選択肢しかない。

1)女性、お年寄りの社会参加を促す。

2)日本国民=人口を増やす(少子化対策)。

3)外国人労働者を増やす。

これ以外に、労働力人口を増やすことに直結はしないが、労働力・人手不足を補うため4)人工知能(ロボットなど)の活用もある。また、消費を増やすだけの観点からいえば、5)観光政策もある。

基本的にすべてやればいいのだが、安倍政権では1)にあたる「一億総活躍」や、5)の観光政策をすでに推進している。ただ、内閣府の試算では、「女性の社会参画先進国」として知られるスウェーデン並の女性労働力比率にしたとしても、また、退職年齢を75歳に引上げても、残念ながら全体の労働力人口の減少には微々たる効果しかないという。

また、同政権では、3)の外国人労働者の導入も中途半端な形で実行しはじめているが、これは私自身きわめて慎重な立場だ(以前のブログを参照)。百歩譲って、安倍総理が宣言しているように34万人の外国人を入れたと仮定しても、30年後にはもっとも労働力人口が多い時よりも約2700万人も減ってしまう。ほとんど「焼け石に水」なのである。

つまり、今の政権が推進している政策の方向性は間違っていないかもしれないが、これだけでは全然足りないのだ。

そこで、時間とお金がかかり、地道で大変かもしれないが、私はやはり、2)の日本国民=人口を増やす政策を絶対にやらなければいけないと考えている。女性が一生のうちに産む子供の数(=出生率)を今の1.4から2.0まで引き上げるのに、20年以上かかる。そこから人口そのものに影響を与えるのには、さらに時間がかかる。当然、少子化対策には長い時間を要し、即効性は求められない。

「もう遅い」という声もあろうが、それでもやるべきである。

やらなければ、よほど人工知能がうまく普及しないかぎり、何百万人の外国人労働者に未来永劫頼らないといけないのだ。「外国人も嫌だ」というのであれば、経済はマイナス成長に衰退していくまでである。「良いとこどり」は許されないのである。

古代より常に一流の国民国家としてつづいてきた日本国を、今後も豊かで平和な形で残さなければいけない。まさしくそれが政治の仕事である。愛国心とは、先人が残してくれたこの立派な国を、今生きている人たちのためだけでなく、いくら時間がかかっても、子々孫々に継承することである。

そもそも少子化の原因で一番大きいのは、やはり経済的な理由である。例えば、内閣府の平成26年の調査によると、

1)「結婚の障害」として、男女ともに「結婚資金」という理由が最大である。

2)すべての年齢層において、非正規雇用者の結婚率が低い。

3)「理想の子供の数」が「二人以上」と答えた人は6割以上もあるが、これを実現できない最大の理由として「子育て費用」があげられている。

こうしたことから、非正規雇用に対する規制を強化することや、ただ何となく大学に行く風習を改めて職業訓練学校を強化し、「手に職」をもつ若者を輩出することも大事であると考えている。

まず今回は、少子化対策としての「家族支援」について詳細に述べる。

「家族支援」というのは、国の予算等により、家族を支援するための現金支援またはサービスの提供のことだ。具体的には、出産扶助、児童手当、保育所運営費、社会福祉(児童扶養手当など)、育児休業給付、就学援助のことである。日本では「子供手当」、「教育無償化」、「保育料の無料化」などの言葉でおなじみだろう。

「家族支援」の国際比較をすれば、先進国の中でも、日本の予算規模は非常に小さい。GDP比でいえば、我が国が1.25%、英国が3.76%、フランスが2.85%、スウェーデンが3.46%、ドイツが2.17%である。もっとも「小さな政府」を標榜する米国は0.72%と低いので、この比較自体に意味があるわけではない。

むしろ、注目すべきなのは、「家族支援」の充実しているフランスやスウェーデンでは、出生率が1.5~1.6台まで低下した後、この政策によって目立って回復していることである。直近では、フランスの出生率が1.98(2014年)、スウェーデンの出生率が1.88(2014年)となっているのだ。

我が国の出生率は、2005年に史上最低の1.26まで落ち込んでから、じわじわと回復して1.4まできている。しかし、「道はまだまだ遠し」である。

効果のある「家族支援」を実行するために最大の障害になるのは、予算の財源を確保することである。1994年の「エンゼルプラン」から、政府が少子化対策を打ってきているが、ほとんど効果が出なかったのは、基本的には予算規模が小さすぎるのである。

では、どのくらいの予算が必要なのか。

今、日本政府は5.5兆円ほどの予算を「家族支援」に使っている。これをフランス並みの水準に増やすためには、今よりもざっと7兆円ほど追加しなければならない。総額12.5兆円が必要である。

この巨額の財源をどうするのか。

私は一つの財源に頼らずに、1)超長期国債=2兆円と、2)税金の組合せ=5兆円により確保すべきだと考える。当然、これらの財源は「家族支援」にしか使えないものとして、法律でしばりをかける(「特定財源化」)こととする。

1)の超長期国債については、「家族債」として50年後に返済するものを発行する。というのも、「家族支援」で子供が増えて、彼らが20年後には仕事をもって税金を納めることになる。出生率が上がるのに20〜30年間かかることを踏まえれば、50年後に「家族支援」により増えた労働力(ひいては税収)で、借金を返すという発想である。この際、永久国債(利払いのみで、元本を返す必要ない借金)や無利子国債(利払いはしなくても良い借金)についてもあわせて検討すべきである。

超長期国債で年間2兆円を財源として確保するのと同時に、残り5兆円については増税をお願いする。すなわち、1)消費税1%=2.5兆円、2)法人税+所得税=両税あわせて2.5兆円分。とりわけ法人税や所得税の中身については、次回詳しく説明したい。

当然、まずは、国会議員の数を減らすことや、行政改革などの「ムダ使い」にメスを入れなければいけない。ただし、これらの財政的な効果はそれほど大きくない。国会議員をすべてクビにしても約800億円強の捻出しかできない。国家公務員の人件費も、自衛隊を除けば、3兆円強である。

それでも、こうした「身を切る改革」を断行すべきであるが、いずれにせよ、国民の皆さんにどうしても負担をお願いしなければいけないのである。

大事なのは、借金と三大基幹税(所得税・消費税・法人税)の組合せにより、今生きている国民の幅広い層と、我々の子々孫々とが、それぞれ負担を分かち合うということである。

また、増税をする際には、当然、景気状況を踏まえる必要があるが、一方で「家族支援」による7兆円のかなりの部分が消費に回ることの景気効果も注目すべきである。

ここ数年、戦後最長の景気回復といわれても、個人消費がなかなか増えない理由には、大企業が空前の利益を上げながらも、内部留保を増やすだけで、賃上げに回されていないことが挙げられる。「賃金上昇→消費増」という好循環が働いていないのだ。「家族支援」の法人課税や高額所得者への所得税強化により、大企業やお金持ちから、もっと消費をする階層にお金を流すことで、回り回って企業にも富が循環するのである。

最近、厚生労働省による賃金構造基本統計の不正問題が発生し、厚労大臣は実質賃金がマイナスで推移してきたことを認めた。名目賃金のほうは、リーマンショックの時から水準は下がっているものの、ずっとプラスで推移している。ところが、物価上昇を加味し生活実感に近い数値である実質賃金は、ここ数年マイナスで推移しているのだ。いくら名目の賃金が上昇しても、物価上昇がこれを上回っている分、実質マイナスなのである。

とりわけアベノミクスは「デフレ脱却」を目標としている経済政策である。一般的に「デフレ脱却」とは、不景気から「脱却する」ことだと思われている嫌いがある。しかし、実際、「デフレ脱却」というのは、インフレ(=持続的な物価上昇)を引き起こすことであり、異常な金融緩和もこのためになされている(アベノミクスの目標は、毎年2%のインフレである)。

つまり、力づくで、無理やり物価を引上げている政策なのだ。

ところが、仮に物価を上げることが良いことだとしても(私は必ずしもそう思っていない)、生活者にとっては、賃金が増えず、物価だけ上がったとしたら、それは迷惑な話であり、消費が伸びないのも当然である。

大体、個人消費はGDPの6割以上を占めていて、景気を左右する最大の項目だ。また、企業や投資家ではなく、一般生活者の「豊かさ」を示すもっとも明確な指標でもある。これが盛り上がらないのが、「実感できる景気回復」とならない一番の障害である。

こうしたことから「家族支援」は、長期の人口を維持するだけでなく、短期的な景気にも貢献するものである。

いずれにせよ、こうした借金・増税は、それなりの負担を国民にお願いすることになり、誠に心苦しいが、本格的な「家族支援」を強力に実施しなければ、経済成長が年々下がることを避けられない。今後20年間のうちに、企業は人手不足で倒産したり、あるいは、海外に移転することになれば、地元や国内で就職することが厳しくなっていく。みんなで力をあわせて、こうした若い世代の「飯のタネ」を確保すべきではないでしょうか。

それだけではなく、若い世代の人口が劇的に減少することは、お年寄りのための社会保障、農村地域の国土保全、国家の防衛力もほぼ必然的に弱体化するということである。

早急に、国力増強のための「家族支援」を真剣に検討すべきである。