ここ数年で新たに注目を浴びている安全保障の枠組みがある。

それはQUAD(Quadrilateral Strategic Dialogueの略称。以下、「クアッド」)というものだ。これは、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国による安全保障の枠組みの通称である。「日米豪印4カ国戦略対話」が正式な名称である。
もともと2007年に当時の安倍首相が提唱し、4か国の事務レベル協議が開催されたものの、多くの人は「いつまで続くのだろうか」と懐疑的だった。というのも、インドは非同盟の外交上の伝統を誇り、他国との連携にそもそも消極的であったし、オーストラリアは中国の怒りを買うことを恐れ、中国を敵視するような枠組みに参加することに消極的だったからだ。

 

しかし、2017年から「クアッド」は息を吹き返した。これは習近平さんのお陰である。

同主席のもと、中国は我が国に対しては尖閣諸島に攻勢をかけ、オーストラリアに対しては経済制裁を発動し、インドに対しては国境紛争を引き起こし、米国に対しては産業スパイ等を仕掛けてきた。そのお陰で、中国のアジア覇権への野望に対して「お互い協力しなければならない」との思いが参加国で共有されたのである。

 

最近の「クアッド」関連の動きとしては、

(1)2020年10月に、「日米豪印外相会合」が東京で開かれ、4カ国の外相が会談した。

(2)2020年11月には、インド・ベンガル湾における恒例の軍事演習「マラバール2020」に我が国の海上自衛隊をはじめ、インド海軍、米国海軍、オーストラリア海軍が一同に参加した。この軍事演習は、建前上「クアッド」と無関係となっているが、実際の中身は、近年インド洋に潜水艦を進出させている中国を念頭に置いて実施された。

(3)米国とインドの間で、①兵站(へいたん)※、②暗号化された情報交換、③海底地図などの機密情報に関する協力体制が構築された。

(4)日本、米国、オーストラリアはそれぞれF35ステレス戦闘機を使用することで、3ヶ国の共同作戦が取りやすくなった。

(5)2020年11月17日には、菅首相とオーストラリアのモリソン首相が防衛協定を結び、これにより両国の共同作戦が円滑に行えるようになった。

※兵站(へいたん)

軍事装備の調達,補給,整備,修理および人員・装備の輸送,展開,管理運用についての総合的な軍事業務。

 

たしかに、「クアッド」はNATOのような条約に基づいた公式の同盟組織ではない。参加国も4カ国と少ない。しかし、現段階では、参加国が少ない方が意思統一を素早くできる。また、今日は軍事だけでなく経済戦争の時代でもある。形式張っていない枠組みの方が、サイバー攻撃に対する防衛から戦略物資の確保等まで、幅広い課題に柔軟に対応することが可能である。

 

例えば、2020年11月に、中国はオーストラリア産ワインに暫定的な反ダンピング措置を発動すると発表し、制裁措置を課した。「中国と交流したいのであれば、言うことを聞きなさい。」という趣旨の発言とともに。オーストラリアにとっては、中国はワインの最大の購入国であり、これは大きな痛手に違いない。

 

我が国も、このことを傍観するのでなく、どうやってオーストラリアを側面支援するか等を「クアッド」の枠組みで検討すべきではないか。過去に、中国が日本に対してレアアースの禁輸措置を課したように、明日は我が身だ。

 

中国の王毅外相は、「クアッド」は“「波の花」のように消えていくだろう”と余裕綽々だ。しかし、外相の言葉とは逆に、「クアッド」は絶え間なく、波際を打ちつづける波濤のように盛り上がっていくだろう。また、そうしていかなければならない。我が国としては、率先してこれを発展させ、必要な時に積極的に動かすことが、自国の国土と国民を守ることにつながる。