ここ数ヶ月、中国が近々台湾に攻め込むのではないか、と騒がれている。これらの推測の糸をたどっていくと、米国の軍事関係者らの発言に行き着く。

 

まず、前国防総省の主席分析官ロニーヘンリーさんが、今年(2021年)の2月議会で、次のように証言。「中国の沿岸地帯に備えられているレーダーとミサイルは中国の統合防空組織の一部であり、これを破壊しない限り、米国の中国に対する攻撃は長距離ミサイルと最も高度なステルス機に限定される」と米軍の弱みを正直に告白している。

つまり、中国側は、米軍の船や飛行機やミサイルを捉え、これらを撃ち落とす能力を持っているということだ。米国はどんなに立派な船とか戦闘機を持っていたとしても、台湾に近寄ることはなかなかできない。したがって、 米国本土からの長距離ミサイル攻撃か、あるいはレーダーに捉えられない最も高度なステルス機による攻撃に限定されるのである。

また、インド太平洋軍最高司令官のヒル・デビッドソン海将は、3月に上院公聴会で次のとおり発言。「中国は軍事力の拡張とともに、香港やチベットをはじめとする中国共産党に対するあらゆる抵抗運動を粉砕する意思を考慮すれば、『規則に基づく国際秩序』の中で行動してきた米国やその同盟国に取って代わろうとする野心を加速しているのではないかと心配する」。

また「台湾に対して中国はいつ攻撃をするのか」という質問に対して同海将は「今世紀、事実今後6年間のうちにその脅威が露わになるだろう」と上院議員たちに答えている。

つまり、中国は軍事力がかなり増強されているだけではない。香港やチベットの抵抗運動に対する中国の横暴な対応を見ていると、これらを徹底的に潰すという非常に強烈な意思が示されている。これまでアジアの秩序は話し合いや「法の支配」などに基づいていたが、これらを担う米国などに中国が取って代わろうとしているのではないか。こうした中国の野心は前からあるのは分かりきったことであったが、これを加速させているのではないかという海将の話である。

 

もう一人、ヒル・デビッドソンの後任として内定しているジョン・アキリーノ海将は3月の米国の指名承認公聴会議会で次のように発言。「中国の台湾侵攻を抑止するために米軍の能力を強化することが喫緊の課題である。」逆にいえば、今は台湾防衛について中国が優位にあるとの認識を示し、中国が台湾に侵攻する時期については、「我々が思っているよりも早い時期に」と発言。

 

以上、こういった証言がなされているので、日本の報道等でも「中国が近々に台湾に武力行使をするのではないか」と騒がれているのだろう。

 

次に、中国の軍事力の拡張について米国の軍事関係者の分析をみていきたい。我が国の軍事関係者ましてや評論家などに比べて、この人たちは台湾有事に対して極めて当事者意識が強く、ど真剣である。また、軍事情報についても最も正確なものを持ちあわせている。「どこの国が好きだから頑張って欲しい」といった類の情緒論に流されない、現実的かつ客観的な分析が期待できるのである。

 

 

米国海軍の情報によると、共産中国は軍艦360隻、米国 は297隻保有。 今年(2021年)4月23日に中国の国家メディアは、習近平が一度に3種類の軍艦を発注したことを嬉々として報道した。1つは駆逐艦、2つ目がヘリ空母、3つ目が弾道ミサイル潜水艦。同メディアは「ヘリ空母は台湾のような山岳地帯に兵隊を送り込むのにもってこいだ」と報じた。弾道ミサイル潜水艦は、恐らく米国を抑止するためである。すなわち、米国本土にミサイルを発射する能力を強化し、米国が安易に中国を攻めることができないようにする、ということだろう。いずれにせよ、人民解放軍は、単に駆逐艦などの数を増やしたりしているわけでなく、あからさまに米軍や米国本土を狙い撃ちにする取り組みを進めているのである。

 

米軍の強みは原子力潜水艦であり、何よりも戦闘機を搭載する空母にあるが、中国は明確にこの空母の破壊を目的とするためのミサイルを備えてきている。米軍グアム基地を精密攻撃するためのミサイルも作ってきている 。対潜水艦兵器や、米軍が依存する宇宙衛星の機能を狂わす技術開発にも取り組んでいる。

さらに、中国は対米軍事シミレーションも行っている。これは、米軍の戦略戦術を真似するプロの軍隊を創設し、中国への攻撃に対応する現実的な訓練にも余念がない。

 

以上、明らかに中国は全体の軍事力を強化しているのみならず、具体的に米国と一戦を交える準備を着々と進めているのである。

 

これを踏まえて、米軍では「対中War Games」という演習のようなものを真剣に行っている。ここでは、逆に、米軍の一部の軍人たちが人民解放軍として行動するのである。例えば、中国はどのように台湾を攻めるのか、米軍の攻撃に対してどう反応するのか等々。以前だったら、完全に米国の軍隊が勝つという結果だった。しかし、ここ数年は中国が勝利するという結果が出ているのである。米国の軍事関係者の危機感の背景には、こうした問題意識がある。

 

 

よく皆さんからいただくご意見として、「アメリカの軍事力の技術は世界最高である。加えて、日本をはじめ中国の周辺には米国の同盟国もたくさんある。軍艦の数などの単純な比較で中国が優位に立つというのはおかしい」と言われる。しかし、軍事オタクや素人が何を言っても、上記の分析は決して私個人の意見ではなく、米国の専門家たちの冷徹な分析である。

米国にとって台湾は本土からとても遠いところだが、中国にとってはホームグラウンドみたいなものだ。中国本土からミサイルを撃ったりすることが非常に簡単で、レーダー性能も発揮することができる。また、米軍が巨大だといっても、中国だけを見ているわけではなく、同時にロシアや中近東にも睨みを利かせなければならない。さらに、究極は米国の若者をどこまで犠牲にするのか、中国の核ミサイルが米国本土を射程に入れていることも、当然に考慮に入れていることだろう。

 

こうしたことを踏まえて、軍事関係者が台湾で“ことを構える”ときには、中国が優位に立っていると認識しているのだろう。 ただ、もちろん軍事能力が高いからといって必ずしも戦争を始めるわけではない。能力と同時に意思があるのか。戦争は人命をはじめ経済社会など多大なる犠牲を強いることである。相当な強い決意と意思がないと中国もそんなことはできない。

 

 

そこで、中国の国家意思を分析することが重要となる。台湾を武力で攻める強い意思があるのか。
中国は事実上、独裁制である。したがって、習近平の個人的意思が重要である。これについていえば、2019年の正月、習近平が国是として表明している「中国の偉大なる復興」の中心に「台湾との統合」を据えている。何が何でも台湾との統合が大事だ、と習近平は認識しているのではないか。また同主席は、「次世代に海峡を挟んでの問題を解決しなければならない」とも発言。彼は中国国家主席の任期を自分の手で完全に無効にし、「死ぬまで主席」であり続ける。そういった意味で、習近平の同世代の指導者は、論理的に想定されないのである。ということから、習近平の任期のうちに台湾を中国に統合するのではないかとも推測できる。ただ、武力で統合を図ることが、中国のほかの指導者たちの一般的な考えかどうかはまだ分からない。いまだに中国は「飴と鞭」の手法で台湾の世論を動かそうとしている。中国の巨大なる市場を台湾に解放して、「どんどん儲けてください」といった「飴」も使っている。これは台湾統合について、中国の平和的解決がまだ模索されている証しだといえる。

 

 

とりあえずの結論としては、中国が10年以内、例えば北京オリンピックの後に台湾を攻めるといったことはないだろう。米国軍事関係者の証言によれば、10年以内に台湾を侵攻するかどうかについては、1)軍事的能力の面では中国がかなり有利になりつつも、2)本当に台湾を攻撃する国家の意思があるのかどうかは何ともいえない、といったところだ。

ただし、これはとりあえずの結論であり、胸をなで下ろして安心する話ではない。中国が能力的に自信を深めていることは間違いないし、年を経るにつれ、さらに能力も自信も強くなっていく。当面は、米国との戦争は避けつつも、台湾に絶え間なくひっきりなしに軍事的圧力をかけ続けて、台湾の防衛能力あるいは国民の戦う意思を疲弊させる方法を取るのではないか。他方、何度挑発して圧力をかけても台湾から手を出すことは考えられないのでは、中国側にとってはやりたい放題だ。我が国の尖閣諸島と同じように「忍び足侵略」を継続し、少しずつ既成事実を作っていくのではないか。

 

 

我が国としては、少なくとも台湾侵攻の確率が高まっていることを前提に、我が事として備えることが重要である。よく報道などで「日本が米中の争いに巻き込まれる」といった表現がみられるが、全くトンチンカンである。台湾が侵攻されたらどこが一番困るのか。近隣の日本ではないのか。台湾が侵攻されるのと同時に、あるいはその後に、尖閣諸島、沖縄が攻められることも十分考えられる。台湾海峡近辺は日本にとって生活に必要な物資が通る重要な海路である。台湾海峡を完全に中国の支配下におかれることは、東シナ海、日本海、あるいは太平洋も支配されやすくなる。台湾が中国に侵攻されることで国益を脅かされるのは、米国以上に日本であるというのは明らかである。

 

したがって、日本としては台湾有事の際の米軍との連携を計画的に進めるべきである。また、台湾に限らず、中国の軍事拡張そのものをどのように抑止するのか、経済技術を含めた包括的な「日米対中戦略」を水面下で検討することが大事である。他方で、人民解放軍上陸の際に、最も重要になる携帯用の対空兵器、対艦兵器をいつでも台湾に運べる準備をしなければならない。さらに、「とりあえずの結論」で述べたように、中国人の視野は超長期的である。現役世代の人口減少や先端技術の停滞をはじめ、我が国の国力の衰退を止めるための施策を早急に実行すべきだ。これについては様々な場所で提言しているので、ここでは割愛する。