2021年3月、米国のバイデン政権と中国の習近平指導部の外交トップによる初の会談が開催された。ここで明らかになったのは、1つはバイデン政権がトランプ前政権の強硬な対中政策を継続しているということ。2つは中国がこれに対して一歩も譲るつもりはないということ、である。

どんなに認めたくなくても、今や中国は、世界で唯一米国に対し「横綱相撲」をとれる超大国になっていると言える。

超大国というと、かつてはソ連がそうだったが、中国はこれをはるかに上まわる手強い相手になるだろう。

 

「新しい冷戦」という言葉がよく使われるが、これは誤解を招く恐れがあると思う。

 

なぜなら、ソ連に対する最初の「冷戦」で、米国がとった戦略は「封じ込め」である。これは、立案者の米国外交官ジョージ・ケナンの言葉を引用すれば、「長期において、忍耐強く、しかし断固と油断なく、ロシアの拡張的な傾向を封じ込める」というものだ。その目的は、「封じ込め」によって、ソ連が弱体化あるいは崩壊することにあった。ソ連の社会主義経済はどこかで行き詰まるという見通しがあったのである。

 

では、米国は、「新しい冷戦」の相手である中国を「封じ込め」ることができるのか。その答えは、無理だろうと言える。

なぜかというと、かつてのソ連と今の中国では、経済の規模だけでなく、その質が全然違うからである。封じ込めたところで、中国の経済が勝手に弱体化したり崩壊したりする見通しは、今のところ見当らない。

 

ソ連は超大国といっても、もっとも経済が拡張した1973年でも、米国経済の所詮36%のGDPしかなかった。他方、今の中国はあと8年程度で米国を抜いて世界一の経済規模を誇る勢いである。世界の国々で、中国を最大の貿易国としている国は64カ国もあるが、米国は38カ国しかない。中国は世界のものづくり製品の22%も生産をしているのである。

米国のハイテク製品、ドイツの車、フランスの高級ブランド商品、オーストラリアの鉱業も全てが中国市場に深く依存してしまっている。

こういったことからも分かるように、中国との経済関係を断つことは非現実的になってしまった。

 

過去を振り返ると、2001年に米国や日本をはじめ先進国は、中国のWTO(世界貿易機関)加盟を認め、暖かく迎えたのである。中国が豊かな国になれば、国際秩序を乱すような真似はしないと考えたのだ。しかしながら、予想以上に巨大になる中国に対して、トランプ前大統領は、どうも様子が違うということで、無理強いし、関税をかけ、経済制裁を試みた。

 

ところが、こうした手法は日本やドイツには通用したが、中国は微動だにしなかった。例えば、中国に支配された後の香港は、金融市場がむしろ繁栄している。また米国は3年もかけて、中国の通信機器の大手メーカーHuawei(ファーウェイ)を徹底的に標的にした。しかし、Huaweiの製品を使っている170カ国のうち、米国の言う通りに使用を禁止したのはわずか12カ国程度であった。この間、世界規模の中国のハイテク企業数は、7社から15社に増えている。

 

中国経済の図体が大きいだけではない。質を比較しても、ソ連経済の最大の強みはガスと石油という天然資源が豊富にあることであった。高度なものづくりの面では、話にならなかったのである。しかし、中国は、最新の消費者動向や新しい技術革新を発見する国として世界の企業から仰がれつつあり、世界の商品価格や資本価格が中国によって決定されるという現状だ。新しい技術がどんどん生まれることによって、インターネット上の標準や規制のあり方が誕生する国としても重視されつつある。

 

ということは、米国が音頭をとって「封じ込め」戦略をとったとしても、中国が孤立するのではなく、自由主義陣営が最先端の産業や技術から孤立しかねない。米国がいくら号令をかけても、ここまで最先端の巨大工場となった中国を無視して、米国にしたがう国はどのくらいあるだろうか。一方で、中国は米国のこうした仕打ちを先取りして、自給自足経済を目指している。昨年から、米ドルでなく、デジタル通貨で貿易の決済をできる仕組みを実験していて、半導体の分野でも自国内で完結できる体制を作りつつある。

 

したがって、漠然と米中が激しく対立するという意味では、「新しい冷戦」と言えるかもしれないが、「封じ込め」戦略は中国に通用しないのである。これは私の意見だけでなく、米国政府や専門家の間では常識となっている。

 

実際、今回の米中外交トップ会談でも、激しくやり合ってはいるが、ブリンケン国務長官は「北朝鮮、イラン、アフガニスタン、気候変動問題については、両国の利益は交わっている」と中国と連携する余地を残している。中国側といえば、もともと米国と共存しつつ、さらに国力を増強したいという戦略目標をもっているのだ。

 

ということで、中国を封じ込めるどころか、今後も中国と交流を続けていかざるを得ないのである。日本や米国が考えなければいけないのは、中国と交流をしつつ、その横暴な振る舞いを牽制することである。

これを実行するためには、

1)日本をはじめ台湾、欧米諸国やオーストラリア、インドなどの軍事力を強化する。

2)日米豪印のQUAD(クアッド)の連携を強化する。

3)各国の大学、クラウド、エネルギー供給網など、官民の機関や重要な供給網を、中国の国家的な攻撃から守るための対策をとる。

 

これらは「言うは易し」であり、実施するためには大変な労力がかかる。中国の実力を認め、脅威を感じてこそはじめて成し遂げられることだ。「中国なんか取るに足らない」とたかをくくるのは気持ちいいかもしれないが、「現実を直視しない者は破滅する」のだ。

 

中国共産党の政治上のイノベーションは、独裁制と技術を結合し、隠蔽と戦略的情報公開を使い分け、暴力と経済的安定を組み合わせることによって成り立っている。今後の少なくとも100年間は、こうした体制とより自由を重んじる体制との闘争となるだろう。